「Lean Analytics」は全てのスタートアップ関係者が読むべき良書
クックパッド社で読まれていることで有名な Lean Startup (邦訳『リーン・スタートアップ 』)という本がありますが、その本で提唱されているリーンな開発プロセスの中の、特にデータ分析にフォーカスした Lean Analytics が素晴らしいです。(残念ながら洋書しかないのですが)
Lean Analytics を3行で要約すると:
- プロダクトを6種類、成長段階を5段階に分類
- 6 x 5 = 30通りに対し、何の指標に注力すべきか教えてくれる
- 指標の状態が "良い" か "悪い" か具体的に分かる
つまり、自分達がその30の中のどこに位置するかが分かったら、即座に今何をすべきか、そして、今の状況が良い状態なのか悪い状態なのかが分かる。しかもその指示が具体的。すごさ伝わりますか?
6つの分類
- Eコマース
- SaaS
- フリーモバイルアプリ
- メディアサイト(運営者がコンテンツを作る)
- ユーザコンテンツ(ユーザがコンテンツを作る)
- マーケットプレイス運営
場合によってはこれらの内の複数を合わせたようなものを作っている場合もあるかも知れませんが、その場合はその両方を見ればよいです。
5つのステージ
- Empathy(アイデアが作るに値する物であるか調べてる段階)
- Stickiness(作ってるものが適切か調べてる段階)
- Virality(使ってもらえるようにする段階)
- Revenue(利益を上げる段階)
- Scale(ユーザを拡大する段階)
もちろん本の中では各段階のより詳細な定義があり、そして、 何を満たせば次の段階に進んでいいか が定められています。
例:インタビューを評価する
具体的に何をすべきか教えてくれる、というのの一例を紹介します。
第一ステージである 1. Empathy は全てのタイプでやることはほぼ同じです。製品を作り始める前に、見込みユーザを集めてインタビューをして、それが作るに価値のあるものか評価するのです。
というと、後述する Lean Startup や Running Lean などを読んだ人は「あ〜知ってる知ってる」という感じでしょう。課題を検証するためにいきなり製品をつくらずにヒアリングから始める、というのは Lean Startup や Running Lean でも言われていることですが、これらの書籍ではその評価の仕方の説明は感覚に頼っています。
一方 Lean Analytics のすばらしいところは、このインタビューを 定量的に評価する方法を提示している ことです。具体的には課題を検証するインタビューを行ったら以下のような基準で評価を行います。
- 提示した課題を順番付けしたか(10点)
- 問題を解決しようとしているか、または過去にしたことがあるか(10点)
- インタビューにのめり込んでいったか(8点)
- フォローアップミーティングを改めて設けることに同意したk(8点)
- 他の人を紹介したか(4点)
- 解決策があるなら今直ぐにでもお金を払うと言ったか(3点)
詳細は Chapter 15 に書いてあるので詳しくはそちらを参照して欲しいのですが、以上43点満点に対し31点以上であれば、その課題は取り組むに値すると Lean Analytics では結論づけます。
Lean AnalyticsとLean Startupの関係
Lean Startup で提唱されているリーンな開発プロセスというのは次のようなものです。
- BUILD アイデアから製品を作る
- MEASURE 製品を作ったら、計測してデータを得る
- LEARN 得られたデータから学習し、次なるアイデアを探し、1に戻る
この中で最も重要なのは LEARN です。いかに素早くこのプロセスを回し、学習していけるか。それこそがスタートアップの肝なのですが、素早く効率的に回すためには効率よく BUILD と MEASURE をしなければなりません。
Lean Startup はこのプロセスの重要さを説くものだったと言えます。一方 Lean Analytics は MEASURE に焦点を当てたものであり、具体的に何を計測すればいいのかを教えてくれるのです。
どこを読めばいいか
最後に Lean Analytics 読書の手引的なものを示したいと思います。なかなか分量が多い本なので、全部読もうとせずに自分にとって重要な箇所だけ読みましょう。
本書は全部で4部構成になっています。
1. Stop Lying to Yourself
第一部は簡単に言えば Lean Startup の焼き直しです。リーンについて詳しくない人は読めばいいと思いますが、読まなくても問題は無いと思います。
2. Finding the Right Metric for Right Now
第二部は6種類のプロダクトと5段階のステージのそれぞれにおいて、もっとも重視すべき指標が何かを丁寧に論じています。ちなみに、この"もっとも重視すべき指標"を本書では OMTM(One Metric That Matters) と読んでいます。詳しくは Chapter 6 参照。
まず読むべきは "Chapter 7. What Business Are You In?" です。ここに6種類のプロダクトの説明が書いてあるので、自分の作っているものがどれに該当するのか判断し、Chapter 8 ~ 13 の該当する箇所を読むといいです。
続いて "Chapter 14. What Stage Are You At?" に進みます。5つのステージの説明があります。そして Chapter 15 ~ 19 の対応するものを読みましょう。
3. Lines in the Sand
第三部は実際に計測した OMTM が "良い" のか "悪い" のかを教えてくれます。6つのタイプに分けてそれぞれのステージの OMTM 毎に説明があるので、該当する箇所を読みましょう。
4. Putting Lean Analytics to Work
最後の第四部はスタートアップ以外への適応、例えばエンタープライズ向け製品の開発現場への応用や、社内起業家向けの説明があります。スタートアップの人は読まなくてよいです。
まとめ
Lean Analytics 素晴らしい。
Lean Analytics: Use Data to Build a Better Startup Faster (Lean Series)
- 作者: Alistair Croll,Benjamin Yoskovitz
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