何故温暖な地域で文明が発達したのか

地球上の様々な地域で歴史を刻みつけてきた人類だが、その発展の仕方は地域によって大きく異なっている。ある地域では文字が使われ、農耕による食料の生産が行われるようになった一方、つい最近まで狩猟採集を続けた地方・民族もある。このような違いが生じたのは何故なのか。

本書は1万3000年前に遡り、地球上の異なる地域をその気候や自生する植物、繁殖していた動物の種類など様々な観点から比較し、この問題に迫る歴史ノンフィクションだ。

上巻では主に食料生産と野生動物の家畜化が行われた地域についての話題と、病原菌についての話題が扱われている。

 

高校の世界史で習うように、メソポタミア文明エジプト文明インダス文明黄河文明から人類の文明社会は始まっている。これらの初期の文明社会にはいくつかの共通点が存在する。本書ではそのような共通点に着目して、文明が発展するのに必要な条件について考察をしている。例えば、比較的温暖な地域に存在する、という共通点がある。赤道直下の常夏の地域ではないし、極寒の地でもない。このような条件が何故文明の発生に必要なのか?

僕を含めて多くの人にとって「そのような地域のほうが過ごしやすいから」というのが真っ先に思い浮かぶ理由だろう。確かに人が多く住んでいる地域は、人間にとって過ごしやすい地域が多い。もちろん、それも重要な要素の一つだ。そして、他にも様々な利点が挙げられている。それらの理由の中で、僕にとって盲点だったのが「一年生植物が多い」というものだ。

一年生植物とは小麦やお米などのように、発芽から収穫までが一年で行われる植物のことをいう。

温暖な地域には四季が存在する。これはすなわち、気候が一年サイクルで周期的に変化している、ということを意味する。そのため、一年間の間に育ち、そして子孫を残す一年生の植物が多く自生するようになる。逆に気候が一定している地域だと、一年生になる必要性が無いためそのような植物の種類が減る。

そして、何故一年生植物が重要かというと、一年で一生を終えるということはすなわち、種まきをしてから収穫までの期間が短いのことを意味するためだ。当然初期の農耕社会はそこら辺に自生していた植物を、人工的に生産できるようにする挑戦から始まる。そのため一年生植物が多いということは、農耕社会へ移るためのアドバンテージとなる。逆に、収穫までに数年を要するような植物ではかける労力に対して採算が合わないため、そのような地域では狩猟採集社会を脱却し農耕社会へ移る必然性が低い。ご存知のように農耕社会による食料の安定供給が無ければ、食べていける人間の数が少ないため、集落の人数が増えない。

 結果、温暖な地域に文明が発生する、というわけだ。

 

本書では他にもさまざまな観点から人類の発展に寄与する条件について、事細かく考察が加えられている。それらの一つ一つがとても興味深く楽しめるので、歴史が好きな人は是非読んでみていただきたい。