その「エンジニア採用」が不幸を生む

本書は巻頭で企業経営者や採用人事、転職を考えているエンジニアなどが想定読者として掲げられている。

第3章「不幸になる要因はエンジニアサイドにもある」という章題からもわかるように、実際に転職に臨む当事者としてエンジニアが知っておくべきことも多く、エンジニアのキャリアを考えるという観点でとても有意義な内容だと感じたので、転職活動をする前に一度目を通してみるといいのではないかと思う。僕は人材紹介会社とやりとりしたことがないが、彼らのやり口に注意が必要、みたいな話もあって面白い。採用面接で聞かれる質問とその対策を論じた書籍がいくつかあるが、転職するのであれば間違いなくそれらの前に本書を手に取るべきだろう。

と、(このブログを読んでいる人はエンジニアが多いと思うので)エンジニアが読むことを想定した感想をまず書いたが、僕はスタートアップでCTOをやっているので、掲げられた想定読者の中で企業経営者や採用人事に近い立場にもいる。その立場からの感想を述べると、本書は「CTOのエンジニア採用・評価という側面からの役割を指摘しているとても貴重な書籍」だった。

CTOというととかく最高技術責任者という字面から技術的な側面が取り上げられがちだが、技術だけ見てればOKなんて事はない。最近でこそVP of Engineeringを別にたてるみたいな話も出て来ているが、そういうポジションを置いたとしてもCTOというポジションに求められる役割の輪郭がはっきりしないのは、エンジニア採用に果たすことが期待される部分の存在によるところが実は大きいのではないだろうか。

その重要性を考えればCTOがエンジニア採用に深く関わるべきである事は自明だと思う(少なくとも弊社ではそうだ)。しかし、いざその立場になってみると、自分が何を期待されているのか、何をすればいいのかはその必要性ほどは自明ではない事が肌身に沁みる。僕の場合、前任者がいないからなおさらそう感じるのかもしれない。

本書を読んでいるといたるところで「CTO」という単語が出てくる。それぞれの文脈で想定されている企業規模や文化、社長の考え方は違うが、読み進める中で「CTO」にぶつかるたびに、僕の中で曖昧だった境界線が少しだけはっきり見えるようになったような気がする。もちろんそこには取捨選択があるが、スタートアップのCTOで本書を読んで自らを省みることが一切ないとしたら、その人はスーパーマンかエンジニア採用の重要性に未自覚かのどちらかではないか。

というわけで、僕は今までになくエンジニア採用においてCTOが果たすべき役割に自覚的になれたという点でもって、本書にとても感謝したいと思っている。