サービスとユーザ
昔書評を管理するサービスをひっそりと運営していたことがある。
個人で作っていたものだし、特に宣伝もしなかったからユーザなんて数えるほどしかいなかったけれど、一人だけものすごく使ってくれるユーザさんがいて、半ばその人のためにサービスをメンテナンスしているような状況だった。
自分が作ったものを他人が熱心に使ってくれるのは本当に嬉しかったし、この人のためだけのために980円のさくらVPSを契約していたようなものだった。
その人はほぼ毎日1冊の本を読むという、読書家かつヘビーユーザだった。
自分のために作ったはずなのに、いつしか自分さえ使わなくなったサービスをこの人はずっと使い続けてくれた。
だから僕は定期的に自分のサイトを訪れては、この人の書評を読んだ。
そんなサービスも数カ月前に閉鎖した。
僕は唯一といって過言でないユーザさんのために、データベースのダンプファイルを加工しブクログにインポートできるように整形して、メールに添付して送った。
メールにはブクログにインポートする方法をできるだけ丁寧に書き、今まで使ってくれたことへの感謝の言葉を連ねた。
どうやらユーザさんは無事にデータの引き継ぎができたようだった。
そして僕は今もたまにブクログを訪れては、かつてのユーザさんの書評を見続けている。
ユーザさんはブクログに舞台を移して今日も書評を書いていた。
これから先何個のサービスの開発に携わるかは分からないけれど、一人で設計からデザイン、運用までをこなしたサービスに、たった一人のヘビーユーザが着く、という状態は二度と訪れることはないだろう。
もっと大人数で、もっと多くのユーザに使われるサービスを作ったとしても、僕はきっとこの名も知らぬユーザさんのことを忘れることはない。