カントの道徳観についてのまとめ

3つの対立軸

カントの思想の中では、人の行いを考える上で3つの対立軸がある

(道徳) 義務 対 傾向性
傾向性とは自己の欲求や利害に則って行動しようとすることであり、道徳性とは傾向性を抑制して義務に従うことである。例えば、皆に好かれたくて行う善い行いは傾向性に支配されているため道徳性は損なわれる。真に道徳的な行いとは、それをすることが義務であるという考えから起こされた善い行動でなければならない。
(自由) 自律 対 他律
自由とは、何にも妨げられずにしたいことをすることではない。動物と同じように快楽を求め、苦痛を避けようとしている時、人は本当の意味では自由ではない。何故なら、それは生理的要求と欲望の奴隷として行動しているだけだからだ。カントの言う自由な行動とは自律的に行動することであり、それは自然の命令や社会的な因習ではなく、自ら課した法則に従って行動することだ。そして、この「自ら課した法則」を生み出すのが理性である。
(理性) 定言命法 対 仮言命法
理性が意思を規定する方法に定言命法と仮言命法がある。仮言命法とは「○○の為に××をする」というような動機付けであり、定言命法とはそれを行うこと自体が目的となる行いである。例えば、会社の評判を上げるために顧客に誠実に対応するのは仮言命法であり、そのような条件付を伴わずに顧客に誠実に対応するのが定言命法である。

英知界と感性界

義務に基づいた行いをし、定言命法に従った自律的な行動を行う事が大事だというのがカントの主張である。カントはそのような状態の人は英知界におり、それ以外の人は感性界に属するとしている。感性界に属する人の行動を規定するものは、自然法則と因果律で、これらの行動は物理学、生物学、神経科学によって説明できる。一方、英知界は自然法則の影響を受けない。真の意味で自由なのはこの領域に属する人のことである。

これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学

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