初見力

だらだらと書き下していく形式の日記というのは、つまりバックスペースキーを一度もタイプすることなく書き進めるというスタイルは、文章量がとても多くなるから質より量だよね的スタンスで臨むにはいいのかも知れないが、得てしてその人の基礎文章力が如実に現れるので、質を見極めるのにも十分に資するところがあると感じる。

プロの音楽家とアマチュアの違いにはもちろん様々な面が影響してくるけれど、最も簡単にそれらの違いを表現するならそれは初見力だろうと思う。どんな音楽も文章も初期状態から練習を通じて少しずつ磨き上げて輝きを増していく(増していかせなければならない)ものだが、プロのそれは、いきなり僕らが1年かけて練習して得た水準をやすやすと超えていく。

昔、たしか中学校の国語の授業で読んだ文章に、鎌倉時代にタイムスリップしたら運慶だったか快慶だったかが仏像を彫っていて、そのあまりの手際の良さにどうしたらそんな上手に彫れるのかと尋ねたら、その運慶だったか快慶だったかが「木の中の仏像を彫りだしているだけだ」と答えるから、それならできそうだと思ってそこら辺に落ちてる木片を適当に削りだしたけれど、どこまでいっても仏像が眠っている木に巡り合えなかった、というのがある。仏像を彫るのも上の話に似ていると思う。つまり、最初に大まかな形を作ってそこから次第に仕上げていく。プロもアマチュアもおそらくは同じ工程を踏むが、プロが最初にぱぱぱっと削りだす仏像は、アマチュアの完成品を軽く凌駕する質を備えている。