阿呆者ノ近況報告
八月頭の事である。
あちらのブログが面白うございます、と噂を聞きつければそちらへ伺い、うむうむなるほどそうか、と意味も無く納得し、あの動画が実に面白いらしい、と風の便りに聞きつけると、それでは早速、と見物に向かう。
そうやって行く宛も無く、電脳世界をあっちにふらふらこっちにふらふらと、まるで大海原を漂う海藻がごとき生活を送る一人の大学院生がいた。
氏はため息まじりにこう言った。
「いっそ海藻になれたらいいのに」
阿呆である。
八日に博士課程の入学試験、十日に修士論文の公聴会が迫っていた。
ネットサーフィンなどしている場合ではないことなど、火を見るよりも明らかであるが、氏はあえて勇敢にもその燃えたぎる炎に背を向け、ニコニコ動画に面を向けるという、絶体絶命の布陣を敷いていた。
実に阿呆である。
何故このような愚行に及んだのか、今となっては当人にも分からない。
当時を振り返り、あの頃は若かった、とは氏の弁である。
そして、いよいよ明日にも試験が行われようかという日に至り、ついに気づく。
尻で真夏の太陽が如き灼熱の炎が燃えたぎっている、と。
「海藻になりたいとは言うたが、海の藻くずになりたいと言うた覚えはないぞ。やい、責任者よ、出てこい。」
待てども責任者を名乗る人物は現れず、無情にも時間だけが流れた。
次第に後悔、自虐、反省、諦め、懺悔等々の色とりどりのあれやこれやが襲ってきた。
じっくり漬け込まれた奈良漬けに負けるとも劣らない一夜漬けの 達人も、今度ばかりは観念するしかなかった。
力無く膝を折り、そして呟く。
「もうダメだ。九月末での卒業は諦めよう。」
蓋をあけてみると、試験も公聴会も案外なんとかなった。
人生そんなもんである。